はじめに:急増する「AI顧問」と、企業が抱える本当の課題
昨今、「AI顧問」「AIアドバイザー」といった肩書きを目にする機会が急激に増えました。これは、AIが単なる技術トレンドではなく、経営や現場にとって不可欠な存在になりつつあることの何よりの証拠でしょう。
多くの企業がAI導入による業務効率化や新たな事業創出に期待を寄せる一方で、こんな声も聞こえてきます。
「AI顧問を招いて話を聞いたが、非常に興味深かった。しかし、結局のところ、明日から自社のどの業務を、どのように変えればいいのか、具体的なアクションプランが見えてこない」
これは、決して珍しいケースではありません。むしろ、多くの企業が直面している「AI導入の壁」と言えるかもしれません。そして、この問題の根源は、AI顧問を選ぶ際の「基準」そのものにあるのではないかと、私は考えています。
本記事では、なぜ「AIに詳しいだけ」の顧問では現場を変えられないのか、そして、真に企業の成果に貢献する「本物のAI顧問」を見極めるために、私たちはどのような視点を持つべきなのか、私の意見を述べさせていただきます。
多くのAI顧問サービスに欠けている「2つの視点」
Googleで「AI顧問」と検索すれば、数多くのサービスが見つかります。各社のウェブサイトを比較すると、その多くが「最新のAI技術に関する知見」「豊富なAI開発実績」「技術的なQ&Aへの対応」といった、AIに関する専門性の高さをアピールしています。
もちろん、AIスキルやノウハウが重要であることは言うまでもありません。しかし、AIを導入して実務を改善し、目に見える成果を出すためには、それだけでは決定的に不十分です。私は、本当に必要な要素は3つあると考えています。

- AIスキル・AIノウハウ
- 改善対象となる事業ドメインの知識
- そもそもの事業改善・業務改善のスキル
この3つが三位一体となって、初めて「AIで現場が変わる」のです。
しかし、現状の多くのAI顧問サービスは、1つ目の「AIスキル」に大きく偏っており、2つ目と3つ目の視点が欠けているように見受けられます。彼らはAIのプロフェッショナルではありますが、必ずしも「事業」や「業務改善」のプロフェッショナルではないのです。
例えば、営業部門の改革をしたいと考えたとき、AIの専門家は「AIを使えば、このようなアプローチが可能です」と技術的な可能性は示せても、「そもそも、なぜこの営業チームの成約率は低いのか」「どのプロセスにボトルネックがあるのか」といった、事業ドメインに根差した課題を特定することは困難です。マーケティングでも、バックオフィス業務でも同様です。
現場の人間が日々何に悩み、どこで手が止まり、なぜオペレーションが滞るのか。その解像度が低ければ、いくら高性能なAIという武器があっても、的確な打ち手を繰り出すことはできません。
「AIインフルエンサー型」顧問の限界
特に注意が必要なのが、SNSなどで最新のAIニュースを追いかけ、その知識の豊富さから注目を集める、いわゆる「AIインフルエンサー型」の人材に顧問を依頼してしまうケースです。
彼らの話は刺激的で、未来への期待感を抱かせてくれるでしょう。しかし、その多くは「AIで何ができるか」という総論に留まり、「あなたの会社のこの業務を、明日からこう変えましょう」という具体的な各論にまで落とし込まれることは稀です。
これは、彼らの能力が低いということではありません。明確な「役割の違い」なのです。
彼らの役割は、AIの最新動向や可能性を広く伝え、人々のリテラシーを高めることにあります。しかし、一個社の特定の業務プロセスに入り込み、泥臭い課題を一つひとつ解決し、数字という結果にコミットする「業務改善」とは、求められるスキルセットが全く異なります。
AIは魔法の杖ではありません。現場の業務プロセスや、その裏にある事業構造を深く理解しないまま、ただツールとして導入しても、期待した成果は得られないのです。
真の「AI顧問」が持つべき3つの資質
では、私たちが本当に求めるべき「AI顧問」とは、どのような人物なのでしょうか。
私は、「AI × 業務 × 事業改善」を一体で考え、実行できる人材であるべきだと考えています。
具体的に、それぞれの資質について見ていきましょう。
| 資質 | 具体的なスキル・経験 |
|---|---|
| AIスキル | 最新のAI技術やツールの知識はもちろんのこと、それを特定の業務要件に合わせて「どう使いこなすか」という実装力、プロンプトエンジニアリング能力、さらには費用対効果を判断するビジネス感覚。 |
| 業務知識 | 営業、マーケティング、人事、経理、開発など、対象となる事業ドメインにおける深い知識と実務経験。業界特有の慣習や専門用語、業務フローを理解していること。 |
| 事業改善スキル | 課題発見、原因分析、KPI設定、施策立案、実行、効果測定、そして改善というPDCAサイクルを回し、実際に「数字と成果を変えてきた」実績。論理的思考力とプロジェクトマネジメント能力。 |
この3つの円が重なる領域が最も大きい人物こそ、あなたの会社を本当に変革へと導くことができるパートナーです。

どうすれば「本物のAI顧問」を見つけられるのか?
AI顧問を選ぶ際に、私たちはつい「どんなAIツールに詳しいですか?」「開発実績はありますか?」といった、技術的な質問から入ってしまいがちです。しかし、本当に問うべきはそこではありません。
本当に見るべきなのは、「AIに詳しいか」ではなく、「これまで、どの現場で、何を、どう改善し、どんな数字と成果を出してきたのか」という実績です。
顧問候補と面談する際には、ぜひ以下の質問を投げかけてみてください。
- 「過去に、弊社の業界(例:製造業、小売業など)の業務改善に携わった経験はありますか?」
- 「具体的なプロジェクトで、どのような課題を発見し、AIを使ってどのように解決しましたか?その結果、どのようなKPIが、どれくらい改善しましたか?」
- 「そのプロジェクトにおける、あなたの具体的な役割は何でしたか?」
これらの質問に対して、抽象的な一般論ではなく、自身の経験に基づいた具体的なストーリーと、 定量化可能な成果を語れるかどうか。それが、本物のAI顧問を見極めるための、シンプルかつ最も効果的なリトマス試験紙となります。
おわりに:AI導入の成否を分ける、最後のピース
AIの導入は、単なる「新しいツールの導入」ではありません。それは、既存の業務プロセスや、ひいては事業そのものを変革する「プロジェクト」です。
そして、あらゆるプロジェクトの成否がそうであるように、AI導入の成否もまた、「誰と組むか」に大きく左右されます。
技術の進化は、情報収集さえ怠らなければ誰でもキャッチアップできます。しかし、現場の泥臭い課題を解決し、事業を前に進めてきた経験知は、一朝一夕で身につくものではありません。
AIという強力な武器を最大限に活かすために、必要なのはAIの専門家だけではない。事業と業務を深く理解し、あなたと同じ目線で汗をかける「事業改善のプロ」こそが、その最後のピースとなるのです。
この記事が、これからAI顧問を迎え入れようと考えているすべての企業にとって、最適なパートナーを見つけるための一助となれば幸いです。

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